50年以上生きていると、視界に入る自分の手はシワシワ。
猫を撫でる手をとめて、がっかりした気持ちで指関節の深い皺を眺めます。
パートで主婦で飼い主の50代おばさんは、自分をケアすることを忘れてもう何年たったかしら…。
鏡もろくに見てないけれど、きっと目じりや首筋も年齢相応、またはそれ以上の変化をしていることでしょう。
ああ、見たくない。
普段は忘れているのに、こんな天気の良い休日の朝はふと見なくてもいいものが目に留まります。
日なたでふくふくに暖まり丸くなる猫たちに、節だった指を広げてゆっくりと手を埋めていくと、目をつぶったまま気持ち良さそうに「うみゃん」と鳴きました。
綺麗じゃなくてもいいの。
だって誰も見ないじゃない。
人生で唯一のパートナーである夫は、妻の顔も髪もスタイルも服装にも興味がありません。
「人生で唯一のパートナー」なのに…。
「がっかりだよ。」
そうつぶやいて、仰向けに態勢を変えた猫の腹をさすると、もっともっとと要求するようにくねくね。
「ああがっかり、ほんとにがっかり…。」
両手で猫を抱えるようにして、柔らかい腹毛にそっと顔を埋めます。
さすがにちょっと迷惑そうな表情になり薄目を開ける猫。
機嫌を取るように背骨からお尻のあたりを軽くトントン。
猫の毛に半分くらい埋まった鼻で、そのままゆっくり呼吸をします。
ケアを怠ったのは自分のせい。
分かってはいるんだけれど。
上がらないモチベーション。
その原因は愛情のガス欠。
50代のおばさんだろうが愛情は必要なんですよ。
お腹に埋めた頭を左右に軽く振ると、爪をかくした前足で優しく頬を押さえられました。
寄せてきた口元が顔に当たって、冷たい鼻水にびっくり。
思わず笑って頭を起こすと壁の時計が目に入りました。
ありゃ、時間がこんなに過ぎているではないですか。
卵の特売の時間がせまっていますよ。
急げ急げ。
帰ってきたらまたやわやわの猫のお腹を撫でなければ。
だってあの柔らかさは全て私の為にあるんだから。
そう思えばこそ生きていけるんだから。
ねえ。
↓ 猫様たちに生かされている飼い主ふとしです。